GIGAスクール構想とは、全国の子どもたちに公平な教育機会を提供することを目的に、一人一台の端末配布やICTを活用した学びの環境を整備する取り組みです。
本格的な運用開始から3年以上が経過し、全国の学校現場ではさまざまな課題が浮き彫りになってきています。
本記事では、GIGAスクール構想の抱える主な問題点を整理し、それらに対する具体的な対策について詳しく解説します。
GIGAスクール構想の目的
GIGAスクール構想とは、全ての子どもたちが平等に質の高いICT教育を受けられるよう、2019年に文部科学省が打ち出した教育改革プランです。
「GIGA」は「Global and Innovation Gateway for All(直訳で『全ての人にグローバルで革新的な入り口を』)」の略称となります。
この構想の中心となるのが、児童生徒一人ひとりへのコンピュータ端末の配布と、学校内のどこでもインターネットに接続できる高速通信ネットワークの整備です。
これにより、生徒一人ひとりの学習の進み方や得意不得意に合わせて、それぞれの可能性を最大限に伸ばせる教育を、全ての子どもたちに平等に提供することを目指しています。
関連記事:GIGAスクール構想とは?目的や現状の課題と導入事例を紹介
GIGAスクール構想の問題点
全国の学校でGIGAスクール構想の運用が始まり、ICT端末を活用した新しい学びの形が定着してきました。
一方で、現場ではさまざまな課題も見えてきています。
ここでは、現場で特に重要となっている6つの課題について、具体的に見ていきましょう。
デバイスの管理
GIGAスクール構想で整備された一人一台端末は、学校現場に新たな課題をもたらしています。
端末の管理においては、休み時間や移動教室時に端末を机上に放置したままの生徒がいることによる紛失や破損のリスク、生徒が自宅に端末を忘れてしまう事例、また端末故障時の対応手順が明確でないことによる教員の負担増加など、さまざまな問題が報告されてい流のが現状です。
さらに、一人一台端末の整備に伴い、学校現場での日常的な管理業務も増加しています。
特に充電状態の管理や故障時の対応、修理・交換時の代替機の確保など、これまでになかった業務が新たに加わりました。
また、長期休暇中の端末管理方法の確立も求められています。
2024年4月には「GIGAスクール構想の実現 学習者用コンピュータ最低スペック基準」が示され、端末の更新に向けた計画的な検討も必要となるでしょう。
このように、端末整備後の運用面での課題は多岐にわたり、教職員の業務負担の増加につながっています。
参考:文部科学省「GIGAスクール構想の実現 学習者用コンピュータ最低スペック基準」
プライバシーとセキュリティ
児童生徒一人ひとりが端末を使用することで、情報セキュリティに関する新たな課題も生まれています。
学習活動で使用する個人情報の取り扱いや、インターネット上の有害サイトへのアクセス制限、SNSでのトラブル防止など、さまざまなリスクへの対応が必要となっています。
文部科学省は2024年1月に「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を公表し、より厳格な対策を示しました。
特に重要となるのが、児童生徒の学習記録や成績情報などの機密性の高いデータの保護です。
また、オンライン学習が日常的となる中、外部サービスの利用による情報漏洩リスクへの対策も求められています。
これらのセキュリティ対策は、学校だけでなく家庭での端末使用時にも必要です。
しかし、家庭によってセキュリティに対する意識や知識に差があり、適切な対策が十分に行き届いていない現状があります。
学校と家庭が連携してセキュリティ対策を講じる必要性が高まっていますが、その実現には多くの課題が残されています。
教師のITスキル不足
令和3年8月に公表された「GIGAスクール構想に関する各種調査の結果」によると、教育現場では「教員のICT活用指導力」の不足が依然として大きな課題として挙げられていました。
全国の公立学校での一人一台端末環境の整備が進む中、それを効果的に活用するための指導方法やデジタル教材の選定・運用に関するノウハウの格差が、課題となっています。
また、日々の授業準備に加えて、ICTスキル向上のための研修時間の確保が難しく、また新しい教育用アプリケーションへの対応や、トラブル発生時の技術的対応にも苦慮しているケースが多く見られます。
このように、ICT環境の整備は進んでいるものの、それを効果的に活用するためには教員のスキル向上や支援体制の強化が欠かせません。
これらの課題に対し、教育現場と行政が一体となって取り組むことが求められます。
教育格差
一人一台のデバイス配布やオンライン学習環境の整備は、教育の質の向上や効率化を期待されています。
しかし、その一方で、家庭のネットワーク環境や保護者のICTリテラシーの違いが、新たな教育格差を生む要因となっている現実も見逃せません。
さらに、地域間でのICT教育の活用度の違いや、学校ごとの指導方法の差も問題です。
一部の自治体や学校ではICT教育を効果的に取り入れ、子どもたちの主体的な学びを支援していますが、他の地域では活用が十分でないこともあります。
このように、GIGAスクール構想が目指す教育格差の解消には、単なる端末の配布だけでなく、インフラ整備や保護者・教員のスキル向上、そして地域間の格差是正に向けた政策的な取り組みが必要不可欠といえます。
関連記事:ICT教育の現状と課題と解決に向けた取り組みについて解説
校内通信ネットワーク環境
2024年4月、文部科学省は「学校のネットワークの現状について」という調査結果を発表し、学校のネットワーク環境の改善が喫緊の課題であることを示しました。
調査によると、学校規模が大きくなるほど必要な通信速度の確保が難しく、特に中規模以上の学校では、通常のネットワーク回線では十分な帯域が確保できない状況が明らかになりました。
また、全国約32,000校を対象とした調査では、推奨される通信速度を満たしている学校は全体の約2割に留まっています。
特に複数のクラスで同時に動画教材を使用したり、クラウドサービスにアクセスしたりする場合に、通信速度の低下が学習活動の支障となっています。
これらの課題に対して、文部科学省はネットワーク環境の改善に向けた具体的な対応策を示し、学校のネットワーク改善ガイドブックの公表や、ネットワークアセスメントへの財政支援など、さまざまな支援策を進めています。
参考:文部科学省「学校のネットワークの現状について」
子どもの健康への影響
GIGAスクール構想における一人一台端末の導入により、児童生徒の健康面において新たな課題が浮上しています。
- デジタル端末の長時間使用による目の疲労や近視の進行リスク
- 前傾姿勢や不適切な画面の視聴角度による首・肩・背中への負担
- 端末使用時間の増加による身体活動量の減少
- 就寝前の端末使用によるブルーライトの影響や睡眠の質の低下
- 長時間の端末使用による疲労やストレス
- デジタル依存のリスク
これらの健康面での課題に対しては、適切な利用時間の設定と定期的な休憩の確保が重要となります。
学校では、児童生徒がデジタル端末を使いすぎないよう、利用状況を把握し、スクリーンタイムを適切に管理する取り組みが求められているところです。
また、目や体への負担を軽減するため、定期的な休憩を取り入れることが必要です。
デジタル端末の適切な活用と健康管理を両立するため、家庭と学校が一体となり、児童生徒の健康を守る環境を作ることが重要となるでしょう。
GIGAスクール構想の問題点の対策
文部科学省は2024年4月、学校のネットワーク環境の改善を最優先課題の一つとして位置づけ、具体的な対策を示しています。
ネットワーク環境の改善
まず、学校のネットワーク環境については、各学校の実情に応じた改善を進めるため、ネットワークアセスメント(通信環境の詳細な調査・分析)の実施を推進しています。
令和5年度補正予算では、この実施のための財政支援を行うことで、より多くの学校での実態把握と改善を目指しています。
セキュリティ対策
セキュリティ面での対策として、令和6年1月に「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を改訂し、より具体的な安全対策の指針を示しました。
教職員の負担軽減
各学校および設置者は、このガイドラインに沿って、児童生徒の個人情報保護や安全なICT環境の整備を進めることが求められています。
さらに、教職員の負担軽減のため、ICT支援員の配置や研修体制の充実を図っています。
特にICT端末の管理や運用面での支援体制を整備することで、教員が本来の教育活動に注力できる環境作りを推進しています。
ガイドブックの作成と地域格差の解消
これらの対策を効果的に実施するため、学校設置者向けの「学校ネットワーク改善ガイドブック」を作成し、具体的な改善手順や方法を示しています。
また、地域による格差を解消するため、広域調達・共同調達の支援も検討されています。
各学校現場では、これらの施策を活用しながら、自校の状況に応じた適切な対応を進めていくことが求められています。
まとめ
GIGAスクール構想は、ICTを活用して教育の質を向上させる取り組みですが、現場では端末管理の負担増加や教員のICTスキル不足、家庭や地域間の格差、セキュリティや健康面の課題が浮上しています。
これらの解決に向け、ネットワーク環境の改善やセキュリティ強化、教職員の支援体制充実が進められています。
今後は学校と家庭、行政が連携し、効果的な運用を目指すことが重要です。