Society 5.0時代を迎え、高等学校教育においてもICTを活用した学びの変革が求められています。
GIGAスクール構想は、当初小中学校を中心に進められてきましたが、現在は高等学校における整備も本格化しています。
今回は、高校教育におけるGIGAスクール構想の重要性や現状、具体的な取り組み事例を紹介するとともに、導入・運用における課題とその解決策について解説します。
高校教育におけるGIGAスクール構想の重要性
- Society 5.0時代の到来
- 高校教育の改革
- GIGAスクール構想の拡大
Society 5.0時代の到来により、私たちの生活は急速にデジタル化が進んでいます。
AIやIoTなどの最新技術が日常的に使われるこの時代において、高校教育でもICTを活用した学びの改革が不可欠となっています。
文部科学省が示す「令和の日本型学校教育」の構築に向けた方向性においても、ICTの活用は重要な柱として位置づけられています。
GIGAスクール構想は当初、義務教育段階である小中学校での一人一台端末整備を中心に進められてきましたが、現在は高等学校においても重要な教育改革として進められています。
家庭の経済状況による教育格差をなくし、全ての生徒が質の高いデジタル教材や学習支援ツールを活用できる環境を整えます。
そうすることで、一人ひとりの学習進度や理解度に合わせた、きめ細かな指導を実現することを目指しています。
特にこれからの高校教育には、将来の進路や職業選択を見据え、知識・技能の習得に加え、思考力・判断力・表現力等の育成や学びに向かう力、情報を正しく理解し活用する力が求められています。
ICTを活用した学びを通じて、Society 5.0時代を生きる力を育んでいくことが、これからの高校教育には必要不可欠なのです。
高校でのGIGAスクール構想の現状とは?
GIGAスクール構想の本格的な導入から数年が経ち、高等学校での取り組みも徐々に広がりを見せています。
しかし、高校におけるICT環境の整備や活用方法は、小中学校とは異なる特徴や課題があります。
ここでは、小中学校との違いや高校特有の課題について詳しく見ていきましょう。

小中学校との違い
高等学校におけるGIGAスクール構想の特徴は、小中学校とは大きく異なります。
小中学校では学級担任制を基本とし、一人の教員が多くの教科を担当しますが、高校では各教科の専門教員による教科担任制が採用されています。
そのため、ICT機器の活用方法も教科の特性に応じて多様化し、より専門的な内容となります。
また、高校では普通科、工業科、商業科など、多様な学科やコースが設置されており、それぞれの特色に合わせたICT活用が求められます。
例えば、工業科では専門的なCADソフトの活用が必須となる一方、普通科では大学入試対策としてのデジタル教材の活用が重視されるなど、学科による違いが顕著です。
さらに、高校では大学進学や就職など、卒業後の進路を見据えた学習指導が重要となります。
そのため、ICTを活用した学習活動も、進路実現のためのスキル習得や資格取得に結びつける必要があるといえます。
高校特有の課題
高校でのGIGAスクール構想には、いくつかの特有の課題が存在します。
2022年度から「情報Ⅰ」が共通必修科目となり、全ての生徒がプログラミング、ネットワーク、データベースの基礎を学ぶことになっています。
しかし、教員のICT活用指導力の向上や、専門的なソフトウェアの整備、実習環境の構築などが課題として挙げられています。
まず、生徒の多くがすでにスマートフォンなどの情報端末を所持しており、学校支給端末との使い分けや管理方法の整理が必要です。
またICTの利用によってより深い「探究」や「情報」の学び、学習効果向上への貢献を望む声も多く、小中学校にはない特有の課題として、環境整備が急務となっています。
これらの課題に対応するためには、校内での無線ネットワークの拡充や通信品質の向上、校務の効率化やペーパーレスなど「校内DX」の推進、活用する場面の見極めなど、さまざまな取り組みが必要です。
また、SNSの適切な利用指導や情報モラル教育など、高校生特有の課題にも対応が求められています。
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高校における具体的な取り組み事例
■京都市立京都工学院高等学校における取り組み
京都市立京都工学院高等学校では、学校統廃合を機に全館Wi-Fi環境の整備と一人一台iPadの導入を決定しました。
工業系の学校という特性から、プログラムやCAD学習の必要性と日常的な授業での使いやすさを比較検討し、バッテリー持続時間や起動の速さを重視してiPadを選択。
導入から9年目を迎え、Teamsを活用したものづくりでのグループ情報共有や、クラウドサービスを使った提出物の収集など、特色ある実践を行っています。
当初のMDMによる管理から、現在は生徒の自主性を重視した運用に移行し、年配教員も含めて積極的な活用が進んでいます。
■宮崎県立小林秀峰高等学校における取り組み
宮崎県立小林秀峰高等学校では、農業科から福祉科まで6学科を有する総合制専門高校という特性を活かし、Windows端末を活用した特色ある実践を行っています。
端末選定では、多様な専門科目に対応できる豊富なソフトウェア、オフライン作業の可能性、卒業後の進路での活用などを考慮してWindows11を採用。
GoogleとMicrosoftの両アカウントを活用し、各学科の特性に応じた柔軟な運用を実現しています。
実習の記録や実技テストの撮影、クラウドでの情報共有など、専門高校ならではの活用が進んでいます。
■埼玉県立所沢北高等学校における取り組み
埼玉県立所沢北高等学校では、先進校の活用状況を踏まえた比較検討の結果、生徒一人一台端末としてiPadを選択しました。
選定の理由として、世界的なシェア率の高さや将来性に加え、ペンによる書き込みのしやすさ、生徒の使用経験などを重視。
MetaMoJiアプリを活用したノート提出や課題チェック、音楽や美術など各教科での多様なアプリ活用、Google Classroomでの情報配信など、授業改善に取り組んでいます。
特に「対話」を重視した授業展開を意識し、ICT活用と生徒の主体的な学びの両立を目指しています。
GIGAスクール構想を成功させるためのポイント
GIGAスクール構想を成功させるためには、高等学校でのGIGAスクール構想の実現には、小中学校とは異なる配慮が必要です。
ここでは、「費用負担」「端末管理」「教員の指導力」の3点について具体的なポイントを解説します。
費用負担の工夫と保護者への説明
GIGAスクール構想を高校で成功させる上で、費用負担の工夫と保護者への丁寧な説明は重要な要素となります。
2024年の文部科学省の調査によると、高等学校での端末整備は設置者負担と保護者負担「BYOD(Bring Your Own Device)」が約半数ずつとなっており、各自治体でさまざまな工夫がなされています。
保護者への説明においては、オープンスクールや入学説明会などの機会を活用し、導入の目的や教育的効果を具体的な活用事例とともに示すことが重要です。
特にBYODの場合は、学校での学習だけでなく家庭学習でも活用できるメリットを説明し、理解を得ることが大切です。
また、導入計画を早期に周知することで、保護者が準備する時間的余裕を確保することも必要です。
端末管理とセキュリティ対策
端末管理とセキュリティ対策においては、学校での利用と個人での利用の境界を明確にし、それぞれに応じた適切なセキュリティポリシーを設定することが非常に重要です。
特に、学校では教育目的に即した利用を確保し、不適切なコンテンツへのアクセスを防ぐ必要があります。
このため、MDM(モバイルデバイス管理)やフィルタリングの導入、さらにアクセスログの監視や利用制限の設定といった具体的な対策が効果的です。
また、アカウント管理の強化や、セキュリティパッチの迅速な適用といった日々の運用面での対策も欠かせません。
これらの取り組みを通じて、情報の保護と安全なデバイス利用環境が実現できるでしょう。
教員のICTリテラシー向上
教員の指導力向上は教育の質を高める重要な要素です。特に高等学校では、教科ごとのICT活用度に差があるため、専門教科での高度な活用を視野に入れた計画的な研修体制が求められます。
また、教員同士が学び合う場を設けることも有効です。若手教員のデジタルスキルを活かしたり、各教科の活用事例を共有したりすることで、学校全体のICT活用能力を底上げできます。
教科特性に応じた活用方法や指導法について情報交換を進めることが、より効果的な指導へとつながるでしょう。
導入の課題とその解決策
GIGAスクール構想を高校に導入する際には、いくつかの課題が明確になっています。
これらの課題に的確に対処することで、より円滑で効果的な導入が可能となります。以下では、主要な課題とその解決策について詳しく解説します。
端末の選定基準と導入方法の選択
高校で利用する端末を選定する際には、コスト、性能、耐久性、生徒の利用ニーズを総合的に考慮する必要があります。
例えば、工業科や農業科などの専門科目では、CADソフトや画像編集ソフトなどをスムーズに動かせる端末が求められる一方、普通科では汎用的な学習アプリやデジタル教材の利用が主流となります。
そのため、学校の特性やカリキュラムに適した端末を選ぶことが重要です。
導入方法については、自治体が一括購入する方式や、生徒が自費で購入するBYOD(Bring Your Own Device)方式など、さまざまな選択肢があります。
どの方法を選ぶ場合でも、保護者の負担軽減を目的とした分割払い制度や補助金の活用、端末の保証サービスを含めた説明が必要です。
インターネット環境とセキュリティの整備
GIGAスクール構想の効果を最大化するためには、高速で安定したインターネット環境の整備が欠かせません。
特に高校では、同時接続する端末数が多くなるため、無線LANの容量や通信速度を十分に確保する必要があります。
また、MDM(モバイルデバイス管理)を活用した端末管理や、フィルタリング機能の導入を通じて、不適切なコンテンツへのアクセスを防ぐ対策も重要です。
生徒の使い方教育とモラルの育成
端末が整備された環境を最大限に活用するためには、生徒がICTを正しく使うための教育が欠かせません。
SNSやインターネットの利用が広がる中、情報モラルやデジタルリテラシーを育成することが必要です。
具体的には、学校生活や学習に役立つアプリケーションの紹介とともに、不適切な使い方のリスクや個人情報保護の重要性を実例を交えて教えることが効果的でしょう。
GIGAスクール構想が描く高校教育の未来
GIGAスクール構想は、高校教育に新たな学びの形をもたらします。生徒一人ひとりが端末を活用し、個別最適化された学習や主体的な探究活動が可能になります。
これにより、生徒の思考力や創造力がさらに育まれるでしょう。
また、教員は指導者から学びの伴走者へと役割をシフトさせることで、生徒と教員が協働し、対話を重ねることで、互いに学び合う新たな関係性が築かれます。
GIGAスクール構想は、デジタル技術を活用して未来を切り開く教育の在り方を提示しています。
まとめ
GIGAスクール構想は、高校教育の未来を切り開く鍵となる取り組みです。
ICTを活用することで、生徒一人ひとりに最適化された学びや探究活動を実現し、思考力や表現力といったSociety 5.0時代に必要な力を育てます。
また、教員と生徒が共に成長する新たな関係性を築くことで、未来を切り開く教育の実現を目指しているといえます。