千葉県のGIGAスクール｜現状と第2期計画の課題と自治体事例

千葉県のGIGAスクール構想は、Society 5.0時代を生きる子どもたちの資質・能力育成を目指していますが、ICT環境整備は全国平均を下回る状況です。

本記事では、県が掲げる教育DXの3つの目標と現状の課題、第2期構想における端末更新やBYOD導入の具体策、さらに市町村間の格差解消に向けた取り組みまで、最新情報を網羅的に解説します。

教育関係者や保護者の方々が、千葉県のデジタル教育の全体像を正しく理解し、子どもたちの学びを支える一助となれば幸いです。

千葉県GIGAスクール構想の全体像と最新の現状

千葉県は令和5年3月に「千葉県教育DX推進計画」を策定し、GIGAスクール構想を核とした教育改革を推進しています。

この計画は、AI・IoT・ビッグデータなどの先端技術が社会基盤となるSociety 5.0時代に対応できる人材育成を目指すものです。

具体的には、1人1台端末とクラウド環境を活用した「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現を掲げています。

児童生徒が主体的に学習課題を設定し、ICTツールを駆使して情報を収集・整理・発信する能力を養うことが求められているのです。

しかし、理想と現実の間には大きなギャップが存在します。

環境整備の遅れやICT活用指導力の地域差など、解決すべき課題は山積しています。

県が掲げる教育DXの3つの目標

千葉県教育DX推進計画では、「学び方改革（子供）」「教え方改革（教員）」「働き方改革（学校）」という3つの柱を設定し、すべての目標達成度を100%と定めています。

学び方改革では、児童生徝が自ら課題を見つけ、ICTを効果的に活用して解決する力の育成を目指します。

端末を文房具のように使いこなし、クラウド上で他の生徒と協働しながら学びを深める環境づくりが重要です。

教え方改革は、教員のICT活用指導力向上に焦点を当てています。デジタル教材やオンラインツールを授業に取り入れ、一人ひとりの理解度に応じた指導を実現することが求められます。

働き方改革では、校務DXによる業務効率化を推進します。出欠管理や保護者連絡をクラウドサービスで行うことで、教員の事務負担を大幅に軽減できるのです。

しかし現状では、ICT活用に関して地域間・学校間で大きな格差が生じています。先進的な取り組みを行う自治体がある一方、端末が十分に活用されていない学校も少なくありません。

ICT環境整備の現状:全国平均との比較

千葉県のICT環境整備は、複数の指標で全国平均を下回っている状況です。以下の表は、主要な整備状況を全国平均と比較したものです。

項目	千葉県	全国平均	全国順位
児童生徒1人あたりPC台数	0.92台	1.0台	40位台
指導者用PC整備率	102.3%	120.5%	40位台
普通教室無線LAN整備率	95.2%	99.4%	下位
超高速インターネット接続率	98.1%	99.2%	中位

特に深刻なのは、ネットワーク環境の脆弱性です。多くの学校で1Gベストエフォート回線を採用していますが、全校生徒が同時に端末を使用すると速度が著しく低下します。

指導者用PC整備率の低さも見逃せません。教員が十分な機材を持たなければ、効果的なICT活用指導は困難です。授業準備や教材作成の効率も上がりません。

さらに無線LAN環境の未整備により、一部の教室では端末を使いたくても使えない状況が続いています。児童生徒が場所を選ばず学習できる環境を整えることが急務なのです。

これらのデータが示すのは、千葉県が全国的に見てICT環境整備で遅れをとっている現実です。第2期GIGAスクール構想では、この格差を埋める取り組みが不可欠となります。

第2期GIGAスクール構想:端末更新とBYODの重要性

第1期で配備された端末の多くは、令和7〜8年度に更新時期を迎えます。千葉県では令和6年度補正予算を活用し、計画的な端末更新を進める方針です。

端末更新の最大の課題は財源確保です。国の補助制度を最大限活用しつつ、各自治体が独自予算を組む必要があります。1台あたり4万5千円程度の国庫補助が見込まれますが、それでも自治体負担は大きくなります。

同時にネットワーク環境の抜本的改善も求められています。現行の1Gベストエフォート回線では、動画視聴やクラウドアプリの同時利用に耐えられません。10G回線への移行や、帯域確保型サービスの導入が検討されています。

県立高校では、新たにBYOD(Bring Your Own Device)方式の導入が進んでいます。生徒が自分の端末を学校に持ち込み、学習に活用する仕組みです。端末調達コストを抑えつつ、家庭学習との連続性も高められます。

これらの取り組みが成功すれば、ICT活用の質は飛躍的に向上するでしょう。しかし、自治体間の財政力格差が新たな課題となる可能性も指摘されています。

印西市に見る端末更新事例(ChromebookからiPadへの変更)

印西市は第2期GIGA構想で、端末をChromebookからiPadへ変更する方針を決定しました。令和8年4月から県共同調達を利用し、順次移行を進める計画です。

この方針転換の背景には、教育現場からの要望がありました。

Chromebookはキーボード入力に適していますが、直感的な操作性ではiPadに劣ります。

特に低学年児童にとって、タッチ操作の方が扱いやすいという声が多く寄せられたのです。

またiPadは、Apple Pencilを使った手書き入力や創作活動に強みがあります。図工や理科の観察記録など、多様な学習場面での活用が期待できます。アプリの豊富さも選定理由の一つとなりました。

一方で、iPadはChromebookと比べて端末価格が高い傾向にあります。

印西市は県の共同調達制度を活用することで、コストを抑える工夫をしています。複数自治体でまとめて調達すれば、スケールメリットが生まれるからです。

この事例は、端末選定が「一度決めたら終わり」ではないことを示しています。教育効果を最優先に考え、必要に応じて方針を見直す柔軟性が重要なのです。他の自治体にとっても、参考になる取り組みといえるでしょう。

県立高校BYODの具体的なルールと費用負担

千葉県立高校では、令和6年度から段階的にBYODを導入しています。保護者や生徒からよく寄せられる疑問について、Q&A形式で解説します。

どのような端末を用意すればよいですか?

学校が指定するスペック(OS、画面サイズ、バッテリー駆動時間など)を満たす端末であれば、メーカーは問いません。多くの学校でiPadまたはWindowsタブレットを推奨しています。

費用負担はどうなりますか

端末購入費と家庭での充電にかかる電気代は保護者負担となります。一方、校内Wi-Fi通信料は県が負担します。端末価格は5万〜8万円程度を想定してください。

セキュリティ対策はどうなっていますか

学校ネットワークに接続する際、不適切なサイトへのアクセスは自動的にブロックされます。MDM(モバイルデバイス管理)ツールを導入し、学習に不要なアプリの使用を制限することも可能です。

端末を持っていない家庭への配慮はありますか

経済的理由で端末を用意できない生徒には、学校が貸与する仕組みを整備しています。誰一人取り残さない環境づくりを目指しています。

故障や紛失時の対応は？

保護者が任意で加入できる端末保険の案内をしています。学校での破損については、状況に応じて対応を検討します。

BYODは家庭の理解と協力なしには成立しません。学校側は保護者説明会を丁寧に実施し、不安や疑問に答える体制を整えることが求められます。

学校現場でのICT活用事例とセキュリティ対策

千葉県内では、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた先進的な実践が各地で展開されています。具体的な成功事例を紹介しましょう。

千葉市のAI英会話システム導入では、生徒が1人1台端末を使ってAI講師と対話練習を行います。発音の正確さをリアルタイムで評価してもらえるため、恥ずかしがらずに何度でも練習できると好評です。教員は個々の進捗状況をダッシュボードで確認し、つまずいている生徒に的確な支援を提供できます。

君津市のMEXCBT活用は、文部科学省が提供する学習eポータルを活用した取り組みです。国語・算数・数学の問題を自動採点し、即座にフィードバックを返します。生徒は自分のペースで学習を進められ、教員は採点業務から解放されます。

印西市のプログラミング教育では、小学校段階からビジュアルプログラミングツールを導入しています。ロボット制御やゲーム作成を通じて、論理的思考力や問題解決能力を育成します。児童は試行錯誤を繰り返しながら、創造的な作品を生み出しています。

これらの実践に共通するのは、ICTを単なる道具ではなく、学びの質を変革する手段として位置づけている点です。教員の創意工夫が子どもたちの可能性を大きく広げているのです。

教育情報セキュリティポリシーの策定状況

千葉県の教育情報セキュリティポリシー策定率は59.8%にとどまり、全国平均の74.2%を大きく下回っています。この遅れは看過できない重大な問題です。

セキュリティポリシー未策定の自治体では、個人情報漏洩のリスクが高まります。実際、千葉県内では年間34件の個人情報に係るインシデントが報告されています。メール誤送信や端末の紛失など、人的ミスによるものが大半を占めます。

GIGA構想下では、クラウドサービスの利用が急速に拡大しています。児童生徒の学習データや成績情報がインターネット上に保存されるようになり、セキュリティリスクは従来より格段に高まっているのです。

文部科学省は令和4年に「教育情報セキュリティポリシーガイドライン」を改訂し、校務DXに対応した新たな基準を示しました。主なポイントは以下の通りです。

• クラウドサービス利用時の暗号化通信の義務化
• アクセス権限の厳格な管理と定期的な見直し
• 多要素認証の導入推進
• インシデント発生時の報告・対応体制の明確化
• 教職員への定期的なセキュリティ研修の実施

千葉県教育委員会は、未策定の市町村に対して策定支援を強化しています。ひな形の提供や個別相談会の開催を通じて、令和7年度末までに策定率100%を目指す方針です。

教育現場で扱う情報には、子どもたちの将来に関わる重要なデータが含まれています。セキュリティ対策の徹底は、デジタル教育推進の大前提なのです。

校務DX推進による教員の働き方改革

校務DXは、教員の長時間労働を解消する切り札として期待されています。千葉県の取り組みは全国平均と同等以上の進捗を見せており、特定分野では顕著な効果が現れています。

欠席・遅刻連絡のデジタル化は、最も効果実感が高い取り組みです。従来は保護者からの電話を教員が一件ずつ受けていましたが、専用アプリやフォームを導入することで自動集計が可能になりました。朝の多忙な時間帯に電話対応から解放され、授業準備に集中できると好評です。

具体的なツールとしては、「tetoru」「マチコミ」「Classi」などのクラウドサービスが導入されています。保護者はスマートフォンから数秒で連絡でき、教員はリアルタイムで出欠状況を把握できます。

家庭への調査・アンケートも大きく変わりました。紙の配布・回収・集計作業は膨大な時間を要しましたが、Googleフォームやマイクロソフトフォームズを活用することで、数時間で完了します。回答データは自動的にグラフ化され、分析も容易です。

成績処理と通知表作成では、統合型校務支援システムの導入が進んでいます。テストの点数を入力すれば、自動的に評定が算出され、通知表の文章作成もAIがサポートします。転記ミスも防げます。

ある中学校教員は「以前は通知表作成に毎学期40時間以上かかっていましたが、今は15時間程度に短縮できました。その分、生徒と向き合う時間が増えました」と話します。

ただし、デジタルツール導入だけでは不十分です。業務フロー全体を見直し、不要な作業を削減する意識改革が伴わなければ、真の働き方改革は実現しません。ICTは手段であり、目的は教員が本来業務に専念できる環境づくりなのです。

地域間格差を解消し、DXを加速させる広域的な支援体制

千葉県内54市町村のICT活用には大きな格差があります。先進自治体と後発自治体の差を埋めるため、県教育委員会は広域的な支援体制の構築を進めています。

最も効果的な取り組みが共同調達の推進です。単独自治体では価格交渉力が弱く、高額な調達になりがちですが、複数自治体でまとめれば大幅なコスト削減が可能です。印西市の事例で触れたように、県が調整役となって共同調達を推進しています。

対象となるのは端末本体だけではありません。ネットワーク機器、デジタル教材、校務支援システムなど、多岐にわたります。令和8年度からは、クラウドサービスの共同利用も視野に入れています。

自治体担当者向け情報共有プラットフォームの構築も進んでいます。オンライン上で先進事例を共有し、課題解決のノウハウを学び合える仕組みです。月1回のオンライン会議では、各自治体のICT担当者が悩みを相談し合い、実践的なアドバイスを交換しています。

「近隣市の取り組みを知ることで、自分たちにも導入できるイメージが湧きました」という声が多く聞かれます。横のつながりが、地域全体のレベルアップにつながっているのです。

さらに外部専門人材の派遣制度も整備されています。ICT支援員やGIGAスクールアドバイザーを県が雇用し、小規模自治体に派遣する仕組みです。専門知識を持つ人材を常勤で雇えない自治体にとって、貴重な支援となっています。

これらの施策により、財政規模や人的リソースの差を超えて、すべての子どもたちが質の高いICT教育を受けられる環境が整いつつあります。県全体で知恵を出し合い、助け合う文化が根付きつつあるのです。

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千葉県のGIGAスクール構想を成功させるために

千葉県のGIGAスクール構想は、環境整備の遅れや地域間格差という課題を抱えながらも、着実に前進しています。

第2期構想における端末更新、BYODの導入、セキュリティ対策の強化、そして広域支援体制の構築が必要です。

教育関係者の皆様には、先進事例に学びながら自校の実践を改善し続けることをお勧めし、保護者の皆様には、家庭でのICT活用ルールを子どもと一緒に考え、健全なデジタル環境を整えることをご提案します。

子どもたちの未来を拓くデジタル教育の実現に向けて、学校・家庭・行政が連携して取り組んでいきましょう。

千葉県教育委員会のウェブサイトでは最新情報を随時公開していますので、ぜひご確認ください。

千葉県内主要市町村のICT環境・端末比較表

自治体名	採用端末	独自のDX施策	端末更新予定
千葉市	iPad	AI英会話システム、デジタルドリル	令和8年度
印西市	Chromebook→iPad(変更予定)	プログラミング教育推進	令和8年4月〜
船橋市	Chromebook	デジタル教科書先行導入	令和7年度
市原市	iPad	オンライン授業配信システム	令和8年度
君津市	Chromebook	MEXCBT活用推進	令和7年度
柏市	Chromebook	学習eポータル活用	令和8年度

保護者向けGIGA端末活用ガイドライン(家庭内ルール例)

• 利用時間のルール: 平日は1日2時間まで、週末は3時間までなど、家庭で上限を決める
• 姿勢と視力への配慮: 30分使用したら5分休憩、画面から30cm以上離す、明るい場所で使用
• 充電場所の固定: リビングなど保護者の目が届く場所で充電し、就寝時は子ども部屋に持ち込まない
• 情報モラルの確認: 他人を傷つける書き込みをしない、個人情報を公開しない、困ったら保護者に相談
• SNS・ゲームアプリの管理: 学習用アプリ以外のインストールは保護者の許可制とする
• 定期的な対話: 週に1回は端末で何を学んだか、困ったことはないか話し合う時間を設ける

教職員向けセキュリティ・チェックリスト