GIGAスクール構想により、全国の小中学校で一人一台端末と高速大容量の通信ネットワーク環境の整備が進められています。しかし、その一方で、ネットワーク回線に関する様々な課題も浮き彫りになってきました。
この記事では、GIGAスクール環境でよく聞かれる回線の課題とその現状、そして具体的な改善策について、専門的な視点から分かりやすく解説していきます。未来の学びを支える基盤だからこそ、しっかりと向き合っていきましょう。
GIGAスクールでよくある回線の課題と現状
「授業で動画が止まる」「オンラインツールがなかなか開かない」… GIGAスクール環境では、このような声が少なくありません。
まずは、具体的にどのような課題があるのか、現状を見ていきましょう。
速度に関する課題
授業中の動画視聴やオンラインツールの利用時には遅延が発生することがあります。
デジタル教材の活用が広がる中、特に動画コンテンツやリアルタイム性が求められるオンラインツールの利用時に、読み込みに時間がかかったり、動作がカクカクしたりするケースが見られます。
これは、まるで高速道路が朝夕のラッシュ時に渋滞するようなもの。通信量が集中すると、流れが滞ってしまうのです。
大容量ファイルのダウンロード・アップロードが遅いという課題もあります。
教材データや課題の提出など、大きなファイルをやり取りする機会も増えました。しかし、回線速度が十分でないと、これらの作業に想定以上の時間がかかり、授業の進行や業務の効率に影響が出てしまいます。
同時接続による速度低下も問題です。全校生徒が一斉にタブレットを使う時間帯など、多くの端末が同時にネットワークに接続すると、一人あたりの通信速度が低下しがちです。
これもまた、限られた道路を多くの車が同時に走ろうとする状況に似ていますね。
安定性に関する課題
頻繁な回線断や接続不良も報告されています。授業の途中で突然インターネットに繋がらなくなったり、接続が不安定になったりする問題も報告されています。
これでは、せっかくのデジタル学習もスムーズに進められません。
時間帯による速度の変動も見られます。特定の時間帯、例えば昼休み明けや放課後などに、極端に速度が遅くなることがあります。利用が集中する時間帯の影響を受けている可能性が高いです。
セキュリティに関する課題
不適切なサイトへのアクセスや情報漏洩のリスクも存在します。インターネットは便利な反面、このような危険も潜んでいます。
フィルタリングが不十分だと、児童生徒が学習に不適切なサイトにアクセスしてしまったり、個人情報や機密情報が外部に漏洩したりするリスクがあります。不用意な状態は、望まない侵入を許してしまいます。
同様にウイルス感染や不正アクセスへの対策も必要です。悪意のあるソフトウェア(ウイルス)に感染したり、外部から不正にアクセスされたりする危険性も常に存在します。学校のネットワーク全体を守るための対策が不可欠です。
インフラに関する課題
Wi-Fi環境の整備状況と電波の届きにくさも課題となり得ます。校舎の構造やアクセスポイントの設置場所によっては、Wi-Fiの電波が届きにくい教室やエリアが発生することがあります。「Wi-Fiの電波は壁を通り抜けにくい」という性質を理解しておく必要があります。特に、鉄筋コンクリートの建物などでは注意が必要です。
ルーターやLANケーブルなどの老朽化も影響します。ネットワークを構成する機器(ルーター、スイッチ、LANケーブルなど)が古い規格のままだと、せっかく高速な回線を契約していても、その性能を十分に引き出せません。道路が整備されても、走る車の性能が低ければスピードが出ないのと同じです。
回線速度を改善するための具体的な対策
では、これらの課題に対して、どのように対策すれば良いのでしょうか? ここからは、回線速度を改善するための具体的な対策を見ていきましょう。
- 契約プランの見直し
- ネットワーク機器の最適化
- LAN配線の見直し
- キャッシュサーバーの導入
- QoS設定
契約プランの見直しと増強
まず、現在の契約帯域幅を確認し、必要に応じて上位プランへの変更を検討します。
現在契約している回線の帯域幅(通信速度の上限)が、学校の利用実態に見合っているかを確認しましょう。もし不足しているようであれば、より帯域幅の広い上位プランへの変更を検討します。
水道管が細ければ、一度に流せる水の量が限られるのと同じ原理です。
回線事業者を選定する際のポイントも考慮しましょう。単に速度だけでなく、安定性やサポート体制、地域での提供実績なども考慮して、最適な回線事業者を選びましょう。複数の事業者を比較検討することが重要です。
ネットワーク機器の最適化
高性能なルーターやスイッチへの交換を検討します。
ネットワークの”交通整理役”であるルーターやスイッチを、より処理能力の高い機器に交換することで、通信のボトルネックを解消できる場合があります。特に、GIGAスクールのような多数の端末が接続される環境では、高性能な機器の導入効果は大きいでしょう。
Wi-Fiアクセスポイントの適切な配置と増設も有効です。
電波の届きにくい場所がないか調査し、必要に応じてアクセスポイントの設置場所を見直したり、数を増やしたりします。校舎の図面を見ながら、電波の”死角”をなくすように計画的に配置することがポイントです。
ネットワーク機器のファームウェアアップデートも重要です。
ルーターやアクセスポイントのソフトウェア(ファームウェア)を最新の状態に保つことも重要です。アップデートにより、性能が改善されたり、セキュリティ上の脆弱性が修正されたりすることがあります。定期的な確認を習慣づけましょう。
LAN配線の見直し
カテゴリーの高いLANケーブルへの交換も検討しましょう。校内LANで使用しているLANケーブルの規格が古い(例: カテゴリー5eなど)場合、より高速通信に対応した規格(例: カテゴリー6A以上)のケーブルに交換することで、通信速度が向上する可能性があります。
見落としがちなポイントですが、効果は大きい場合があります。
配線の整理と最適化も行いましょう。ケーブルが絡まっていたり、長すぎたりすると、通信品質に影響を与えることがあります。配線を整理し、適切な長さのケーブルを使用するようにしましょう。
キャッシュサーバーの導入
よくアクセスされるコンテンツをキャッシュし、回線負荷を軽減するためにキャッシュサーバーを導入します。
キャッシュサーバーは、一度アクセスしたWebサイトのデータなどを一時的に保存しておくサーバーです。
同じデータに再度アクセスがあった場合、インターネットまで取りに行かず、キャッシュサーバーから応答することで、表示速度を向上させ、外部への回線負荷を軽減できます。
よく使う道具を手元に置いておくイメージですね。
QoS(Quality of Service)設定
特定の通信を優先的に処理するようにQoS設定を行います。
QoSは、ネットワーク上で特定の通信(例えば、オンライン授業の映像や音声)を優先的に処理するように設定する技術です。
これにより、他の通信の影響を受けにくくなり、重要な通信の品質を安定させることができます。
高速道路のETCレーンのように、特定の通信をスムーズに流す仕組みと考えると分かりやすいでしょう。
GIGAスクール回線の安定性を高めるための対策
速度だけでなく、”いつでも繋がる”安定性も重要です。ここでは、回線の安定性を高めるための対策を見ていきましょう。
冗長化構成の検討
複数の回線を利用し、障害発生時のバックアップ体制を構築することを検討します。
メインの回線に万が一障害が発生した場合に備えて、別の回線事業者の回線やモバイル回線などをバックアップとして契約しておく(冗長化する)ことで、通信が完全に途絶えるリスクを低減できます。車のスペアタイヤのような存在です。
ネットワーク機器の定期的なメンテナンスも行いましょう。
ルーターやスイッチなどのネットワーク機器も、定期的な点検や清掃、設定の見直しを行うことで、故障のリスクを減らし、安定稼働に繋がります。見えないところで頑張ってくれている機器たちにも、日頃のケアが大切です。
電波干渉対策
周波数帯の変更や障害物の排除といった電波干渉対策を実施します。Wi-Fiは、他の電子機器(電子レンジなど)や近隣のWi-Fiアクセスポイントと電波干渉を起こすことがあります。
アクセスポイントの設定で利用する周波数帯(チャンネル)を変更したり、電波を遮る障害物を移動させたりすることで、干渉を避け、通信を安定させることができます。
適切なネットワーク設計
利用状況に応じた適切なネットワーク構成を設計します。学校の規模や利用端末数、利用するアプリケーションなどを考慮し、将来的な拡張性も見据えた上で、最適なネットワーク構成を設計することが重要です。
専門業者の意見も参考にしながら、無理のない、安定したネットワークを目指しましょう。
セキュリティ対策の強化
安全な学習環境を守るためには、セキュリティ対策も欠かせません。どのような対策が必要か見ていきましょう。
ファイアウォールの導入と適切な設定
不正アクセスや外部からの攻撃を防御するために、ファイアウォールを導入し、適切に設定します。
ファイアウォールは、学校のネットワークとインターネットの間に”防火壁”を設置し、不正な通信や外部からの攻撃を検知・防御する役割を担います。いわば、ネットワークの”門番”です。
適切に設定し、常に最新の状態に保つことが重要です。
フィルタリング機能の活用
不適切なサイトへのアクセスを制限するために、フィルタリング機能を活用します。
学習に関係のないサイトや、有害な情報が含まれるサイトへのアクセスを制限するフィルタリング機能は、児童生徒を守る上で非常に重要です。
学年や利用目的に応じて、適切なレベルのフィルタリングを設定しましょう。
VPN(Virtual Private Network)の導入
安全な通信経路を確保するために、VPNを導入します。
教職員が自宅など外部から校内ネットワークにアクセスする場合、VPNを利用することで、通信内容を暗号化し、安全な経路を確保できます。トンネルを通って安全に目的地へ向かうイメージです。
セキュリティポリシーの策定と周知
教職員や児童生徒へのセキュリティ意識を啓発するために、セキュリティポリシーを策定し、周知します。どんなに優れたシステムを導入しても、使う人の意識が低ければ、リスクはなくなりません。
パスワードの適切な管理、不審なメールやファイルを開かない、といった基本的なルールを定めたセキュリティポリシーを策定し、教職員や児童生徒に繰り返し周知・啓発することが、最も基本的かつ重要な対策と言えるでしょう。
「自分は大丈夫」と思わず、常に意識することが大切です。
回線選びのポイントと注意点
これからGIGAスクール環境の回線を見直す、あるいは新たに導入する場合、どのような点に注意して選べば良いのでしょうか?
学校の規模と利用状況に合わせた回線速度を選定します。全校生徒数、同時に接続する端末数、利用するコンテンツの種類などを考慮し、十分な速度(帯域幅)を持つ回線を選びましょう。オーバースペックである必要はありませんが、将来的な利用増も見越して、少し余裕を持たせると安心です。
回線の種類と特徴(光回線、モバイル回線など)を理解します。主流は安定性と速度に優れた光回線ですが、設置場所の制約がある場合やバックアップ用途としては、モバイル回線(LTE/5G)も選択肢になります。それぞれのメリット・デメリットを理解して選びましょう。
プロバイダの信頼性とサポート体制を確認します。回線を提供するプロバイダ(ISP)の信頼性や、トラブル発生時のサポート体制も重要な選定ポイントです。教育機関向けのプランやサポートを提供している事業者を選ぶと、より安心できるでしょう。
導入費用と月額費用を比較検討します。初期導入にかかる費用と、毎月発生する月額費用を比較検討します。単に安さだけでなく、速度や安定性、サポート内容とのバランスを考慮することが大切です。
将来的な拡張性も考慮して選定します。今後、さらに高度なデジタル活用が進む可能性も考慮し、将来的にプラン変更や帯域増強がしやすいかどうかも確認しておくと良いでしょう。
GIGAスクール回線に関するよくある質問と回答(FAQ)
- 授業で使う時間だけ遅い気がします。なぜですか?
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特定の時間帯に利用が集中し、回線が混雑している可能性が高いです。契約プランの見直しやQoS設定、キャッシュサーバーの導入などが有効な対策となります。
- Wi-Fiが繋がりにくい教室があります。どうすれば良いですか?
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アクセスポイントの設置場所の見直しや増設、電波干渉の対策(チャンネル変更など)を検討しましょう。校舎の構造によっては、中継器の設置も有効な場合があります。
- セキュリティ対策は何から始めれば良いですか?
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まずはファイアウォールの導入と適切な設定、そしてフィルタリング機能の活用が基本です。加えて、教職員や児童生徒へのセキュリティ意識向上のための啓発活動も非常に重要です。
- 回線速度はどれくらいあれば十分ですか?
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一概には言えませんが、文部科学省のガイドラインなどを参考にしつつ、学校の規模や利用実態に合わせて検討する必要があります。当社でも相談を受け付けております。
- 複数の対策を同時に行う必要はありますか?
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必ずしも全てを同時に行う必要はありません。まずは現状の課題を分析し、ボトルネックとなっている箇所から優先的に対策を講じるのが効果的です。費用対効果も考慮しながら、段階的に改善を進めていくことをお勧めします。
まとめ
GIGAスクール構想におけるネットワーク回線は、児童生徒の学びを支える重要なインフラです。速度、安定性、セキュリティ、インフラといった様々な側面から課題を捉え、適切な対策を講じていく必要があります。
契約プランの見直し、ネットワーク機器の最適化、セキュリティ対策の強化、そして利用状況に合わせた回線選び。これらのポイントを押さえ、継続的な改善に取り組むことで、より快適で安全なデジタル学習環境を実現できるはずです。
なお、弊社、田中電気でも、GIGAスクール環境におけるネットワークの課題解決や環境構築に関するご相談、サポートを承っております。